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熊本家庭裁判所御船支部 昭和34年(家)70号 審判 1959年10月30日

申立人 江口トミ子(仮名)

事件本人 江口昭一(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は未成年者を養子とすることの許可を求め、申立人は幼少の頃失明したため独身生活をしているが、未成年者の父で申立人の従兄である江口貞男が申立人の将来を心配して、未成年者を申立人の養子にやろうと言つているので許可の審判を得たく、この申立をしたと実情を述べた。

申立人、未成年者及び江口貞男を各審問した結果、並に同人等の戸籍謄本の記載を綜合してみると次のような事情が認められる。申立人の亡父は江口貞男の亡父の弟であり、両人は幼少時から兄妹のようにして育つてきたのであるが、申立人は四歳の頃に病気のために失明し今日まで独身生活をしていて、この間、上記未成年者の父貞男の扶助を受けている。昭和三四年四月頃から申立人はかねて修得していた鍼灸の仕事をするため貞男方から肩書地に移つたが、老後の生活などのことを考えて心配しているのに貞男が同情し、唯一の男子である未成年者を申立人の養子として入籍して申立人を安心させたいと考え、未成年者においてもこれに同意し、三者協議の上本件申立がなされたのであるが、申立人と未成年者間には同居するとか、その他親子のような生活をしようというのでなく、未成年者は従来どおり父貞男と同居を続けて同人の所有農地一町余の農業を将来継承しようというのである。申立人は資産とてもなく、未成年者の父貞男の外に近親者もない気の毒な境遇にあるが、右貞男が申立人の老後の生活は保障すると約束しているのがせめてもの申立人の幸いである。

さて、民法第七九八条は未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可を要するものとしているがその法意を考えるに、それは縁組の当事者が未成年者の福祉を害し若くは害する虞のある縁組を成立させることを防止しようとするところにあるであろう。本件において、関係人等が申立人を保護しようとする善意は諒解できるが、申立人の将来の生活などについては扶養の契約等適当な方法を考慮して申立人が安心できるようにするのは格別、未成年者を養子とする方法によつては未成年者の福祉を害する虞があると認められるので、これを許可すべきでないと考える。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 松下歳作)

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